今やここ現在の日本では歯の欠損部・喪失部における補填治療にインプラント治療は不可欠なものとなりました。完全に市民権を得ていることと、これはあくまで喪失してしまった歯への補填治療であって、永遠の安全を保障するものでもないことも周知のこととなりました。一生保障などという如何わしいコピーも今は昔のことになりましたね。
さて、このように発展してきた歯科におけるインプラント治療ですが、進歩発展していく中でさらに理解しわかってきたことを集結し、今後の未来に向けたさらに安全なインプラントの考え方の一つを今日はご紹介したいと思います。
そうです、ただその時だけ歯があれば成功というインプラントの時代から、メンテナンスが必要とされ、さらにサバイバルレートが伸びてきた現在のインプラント。それこそ歯を失った時からインプラントによる人工歯となり、生涯をそのインプラント歯で過ごすことも可能な時代です。そこで、私たちの身体の一部としてのインプラントですから、さらに必要な考え方を加えたものが今日ご紹介するインプラントの新常識です。書き進めていきますね。
新インプラントの常識 (誤嚥性肺炎問題を考慮して)
現在は高齢化社会です。人口ピラミッドのゆがみも指摘されてはや20年も経過しそうな今。私たちは如何に死にゆくかという命題を背負って生活しています。その中では、なるべく自立して他の介護者のお世話にならないという目標もありますが、さすがにそうだけとも言ってはいられません。どなたかにご厄介いただくことや、介護施設の中でターミナルに向かっていくことも考えあわせなければいけません。そのなかでも美味しくお食事をすることはとても重要なQOLです。入れ歯で不自由よりも、歯がなくて不自由よりも、インプラントがアドバンテージを持っていることは明白です。しかし・・・
しかし、もし自分の四肢が不自由になり、どなたかに介助を受けながらご飯を頂くことになったとしたら、どなたかに歯ブラシをしていただかなければ歯も磨けないという状態になったら。そうです、インプラントはお掃除が大事です。このような状態になり、他の歯は入れ歯を外すことでとても口腔内の衛生状態をよい状態で保てるのに、インプラントのある部分だけが人工的な異物の突出した状態で清掃できない、清掃しにくいということも実際の介護現場では多く聞かれるようになってきました。
また、この状態でもなかなか介護の手が回らず、口腔内が不潔なままでお過ごしになっていらっしゃる方の数や、一部にだけインプラントによる異物の突出のため、咀嚼機能が低下している方々の数は増加傾向にあります。
そこでこれらの負の事象の解決策として、手術の必要なく、口腔内からインプラントを外せること。あるいは、とても小さな手術でインプラント及びその周囲の人工物を口腔内から撤去できることが必要となることがわかってきました。特に介護などを伴う生活の方には健康状態の低下や、合併症などを有することも多く、口腔内の歯科的な外科処置も、お身体には負担が大きく、不可能なケースも考えられます。
さらに大きな問題として、肺炎により死に至るということも大きな問題です。特に高齢者の中に大流行な誤嚥性肺炎という問題、ご存じでしょうか。今や、私たち日本人の死因の第2位が肺炎です。この肺炎と、お口の中の衛生状態が大きく関わっています。
高齢者や合併症などを有する有病者は、身体の力、免疫力や抵抗力が劣ってきます。口腔内の不潔なものが気管から肺に落ちてしまい、肺炎に罹患してしまうケースがとても多くなってきているのです。
ご理解いただけたでしょうか。無歯顎(歯が1本も残っていないこと)の場合、たとえ総入れ歯が入っていたとしても、それを外していただければ、至極口腔内は単純で清掃しやすい口腔環境に出来ます。うがいやガーゼで拭えば清潔を保ち、誤嚥性肺炎のリスクを軽減できます。
ご自身の自然な天然歯の歯列の場合、虫歯や歯周病などにより痛みや違和感、歯の動揺により治療の必要性や、抜歯の必要性はある程度自覚症状によりご自身でも判断できます。
ではインプラントはどうでしょう。他の歯が歯周病で抜けてしまった後にも顎骨内に深く固着しているインプラントは容易に取り外せません。よくご高齢者で、歯が無いのになんでも召し上がれる元気な方をテレビで観ることがあります。100歳を超えてもとても素敵な笑顔とお寿司が大好きと言って大きなお口でお寿司を頬張るキンさんは、私の脳裏にも張り付いています。これは顎の土手といわれる歯茎の部分で、ある程度咀嚼できているのです。でもこの中に1本だけでもインプラントが突き出ていたらどうなるでしょうか。かみ合わせのバランスが悪く、噛むと対合する顎にインプラントが食い込み痛みの出ます。痛くて噛めない、そして、そのインプラント周囲にはみがき残しによる汚れも付着していきます。この不潔域から気管を通り肺へばい菌が入り込みます。お食事もまともに噛めない体では身体の抵抗力も低下しています。そうです、ドーン! 肺炎に罹患します。
脅かして申し訳ございません。でもこれは現在の高齢者社会で起きている事実です。インプラントはとても重要で必要な治療法です。いま一つ合わなくてよく噛めない入れ歯や、喉の奥まで覆う入れ歯が発声や装着感に違和感をもたらしたり、必要以上に歯を削り必要以上に歯を繋げることも必要としません。現在では欠損部への最高の歯の修復法の一つです。これはインプラント治療に四半世紀携わってきた私も実感しています。今更インプラントを一概に危険だ、なんて申し上げるものではありません。インプラントは人類にとって素晴らしい歯科治療法です。もちろん天然の歯が一番よくて、この天然の歯を無理に抜いてまでインプラントにすることには抵抗勢力の歯科医師ですが。
要は、高齢や要介護の状態になってしまった時でもアドオンできるインプラントを考えましょうといいたいのです。
上部構造(歯の形の部分)はネジを逆に回せば外れる構造。アバットメント(人工歯根と上部構造を繋ぐ土台の部分)もネジを外せば平らな歯茎になるタイプのインプラントフィクスチャー(人工歯根)は簡単な手術でも外せる長さ(短い方が有利)、おおよそ10ミリ未満のインプラントが好ましいということです。もちろん直径も4ミリくらいまでが良いかもしれません。もちろんインプラントメーカーにより強度などが違います。
また、インプラント周囲にもなるべく生体の異物である人工骨などは使い過ぎず、既存の状態に適応できる無理のない治療計画・治療設計が求められます。
現在の私は、なるべくインプラントの本数を減らすために長くて太いインプラントを使用するのではなく、なるべく短く細いインプラントを適材適所使用するように努めています。
少なくとも歯科医師の配慮で誤嚥性肺炎を増やさないように考え続けたいと思います。今私が考えていることが全てではないでしょう。でもできれば多くの歯医者さんがテーマをもって、考慮してインプラント治療の選択していくことが重要です。インプラント治療をこれから選択なさる方は、是非ご担当医のお考えをよく理解し、治療法をご選択くださいませ。
私のインプラントに対する考え方を簡単に紹介しているサイトも合わせてご覧くださいませ。
最後までお読みいただき感謝です。少し乱文にて終わりましたが、また後日改訂していきますね。(銀座メディカルデンタルクリニック 歯科医師 山内浩司)